mosca cieca2





目の見えぬその眼(まなこ)で
ほら、追いかけろよ(追いかけてやるよ)

終わらない(終わらせない)

2人だけのmosca cieca






mosca cieca2






あの日
ジャンは一人曇天の下、足早に自分のアパートへ向かっていた。
そこへポツリと雫が落ちてくる。

「やば・・・」

早足から駆け足に変え、小路を通り過ぎようとした瞬間、なにか人のうめき声のようなものを聞いた気がした。
振り向いた瞬間、派手に何かが倒れるような音。

何か、いる・・・

ジャンは脚を止め、音のした方へそっと近寄る。
小路の奥で、黒い大きな塊が動いているのが分かった。

「おい・・・っ!大丈夫か・・・?」

近づき顔を覗き込み初めて、その塊の正体に気付いた。

「な・・・っ!」

忘れもしない、この男はあの時のヤンキーバクシー・・・!
なんでこんなところに!
俯いたままのバクシーは、見る限りだいぶ弱ってそうだったが、関わりたい相手ではない。
見なかったふりで、じり・・・と後ずさり、踵を返そうとした瞬間、

「そこに、誰かいるのか・・・?」

ギクリと動きが止まる。

「誰だ?」

バクシーの顔はこちらを向いていた。だが、
こいつ、まさか目が見えていないのか・・・?
その瞳はこちらを見定めてはいなかった。
少しほっとする。しかしこの状況をどうしたら・・・
・・・いや、逃げる以外ありえねえだろ。
わりいな。

「・・・いてえ」

申し訳程度に心の中で謝って立ち去ろうとしたが、俺は見てしまった。
バクシーの虚ろな、たぶん何も映していない目から、透明の雫がこぼれた。
「・・・っ!」

恐らくそれは悲しいとか痛いとかじゃなく、ただの生理現象の涙だったのだろうが、

「・・・なんだよ、これじゃあ俺が悪者じゃねえか・・・」

思わずバクシーの前にしゃがみこみ、その雫が伝う頬に手を伸ばしていた。
頬に指先が触れ、涙を拭ったその瞬間、ガシッと大きな手でジャンの手首が掴まれる。
「・・・っ!い・・・てぇ」

そして見えていないはずのバクシーに体ごと雨で濡れた地面に押さえつけられる。
バクシーの顔が首筋に寄せられる。

「いい匂いだな・・・」

そのまま舌先で首筋をべろりと舐められる。
そのまま喉に喰らいつかれそうな予感にぞくりと震え、ぎゅうっと目を瞑る。
だがいつまで経っても噛み付かれることはなく、代わりにバクシーの体がどしゃりと倒れこんできた。

「・・・?」

いつの間にか雨は大粒のものに変わっており、服が水を吸い込んでズシリと重い。
その上バクシーに上から乗りかかられている。
そしてその体の異変に気付く。

「・・・すごい熱じゃねえか・・・っ!」

俺はなんとかバクシーの下から這い出し、自分の体重の倍はありそうな巨体に肩を貸し、
朦朧としているバクシーを連れ自分のネグラに帰ったのだった。



「さみぃの、か?」

濡れたバクシーの服を脱がせてベッドに寝かせ、家にある布全部をバクシーに被せたが
バクシーの体の震えは止まらなかった。
熱も下がらない。
頭に置いたタオルを交換しようと腕を伸ばす。
その腕をバクシーの手が掴んだ。

「なにもしねえよ・・・」

抗争中の習性か、バクシーは腕を伸ばすと必ず反応を返した。
空いた方の手で髪の生え際に浮かんだ汗を拭ってやる。

「うあ・・・っ!」

今度は両腕を掴まれバクシーの方へ引き倒される。

「な・・・っにすんだよ・・・」
「・・・あったけえ、な・・・」

そう言って動かなくなる。
どうやら眠ってしまったようだ。

「しょうがねえなあ・・・」

確かにこうしているとあったかい。

急な睡魔に襲われて、ジャンもそのまま眠りについたのだった。







write by 【AME-DOS】 master 【飴子】
pict by 【Ottonove】 master 【89】




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