mosca cieca







目の見えぬその眼(まなこ)で
ほら、追いかけろよ(追いかけてやるよ)

終わらない(終わらせない)

2人だけのmosca cieca






mosca cieca






どうしてこんな事になっているのだろう。
小さく心の中で呟くジャン。だけど



―――引き返せない。



 そう、引き返せるわけが、ない。




「ん…」




 ちゅ、と小さく音が響く。…目の前には吊り上がった男の唇。…そう、見えるのは唇だけ。

 何故なら男の目元には…白い包帯が厳重に巻かれていたからだ。



「どうした、お嬢ちゃん、そんなモンかよ?」
「…うる…せえ、これから、だ」



 挑発的な言葉に眉間に皺を寄せ、言葉を紡ぐジャン。はあ、と小さく息を吐き、目の前の銀髪の男を、バクシーを睨みつける。



(わかるはずが…ない)



 そう、この男は目が見えていないのだ。自分が拾った時にはすでに視力を失っていたのだ。

 だからこそ、何となくほっとけなくてこっそりかくまって

 だからこそ…



「ほえづら…かくなよ」



 バクシーの膝の上に乗り上げる。ぎしり、と悲鳴を上げるようにベッドが軋んだ音をたてる。

 そのままバクシーの頬を両手でそう、と包み込むように持ち、…そのまま口づける。





 ざらり、歯列を己の舌で舐めあげる。そのまま深く侵入しようとして



「んっ」



 びくり。身体が震える。思わず相手の男の肩を強く掴む。はあ、と熱い吐息が漏れ、…飲み込まれる。



「何だぁ、お嬢ちゃん、もうギブかい?」
「…うっせ、えどこ…触って…んんっ」



 バクシーの腕が己の臀部にまわっている。顔に似合わず細く長い指が



「んんんっ…あ、ちょ…」
「…可愛い声で啼くじゃねえか」



 ぐり、とズボンの布ごしから後腔付近に指をめりこませる。痛みよりも、布がこすれる奇妙な感覚に身体が微妙に反応する。じわり、と濡れるなうな感覚に頬に朱が走る。



「っ、オマ…ホントは…あっ…みえて…」



 絶え絶えになりつつ訴えかける。けれど相手は唇を吊り上げるだけで



「はあ、何言ってんだ、テメエは?」
「ひゃああっ!」



 不意に前を触られる。いや触られるというよりはなぞられる。いつのまにか開かれたジッパーの間から忍び込まれた手によってゆっくりと…快感を煽るように。熱いジャン自身に絡まる冷たいバクシーの指先。



「ど…こ、触って…っんんんんっ」
「…勃ってるじゃねえか」
「ふ…」



 耳元に擽るように忍び込んでくる低音。ぞくり、と首筋から甘いしびれのような感覚が背筋にまでいたる。



(何で…こんなに…見えて、ない、のにっ!)



 がくがくと足が震える。必死にしがみつくような形で膝の上から落ちるのだけは堪えるが…バクシーの手の動きは一向に止まらない。

 ぐちゅぐちゅ、と前から洩れてくる粘着質な音と…背後から布越しに後腔をいじられる指の感覚が…己の体温をどんどん熱くさせる。

 熱く…熱く… まるで脳の中までどろどろに溶かしてしまいそうなほど熱くて…甘くて…。



「…布越しからでも濡れてるのがわかるけ?」
「……っ」



 囁かれると同時に、ぴちゃり、と耳に濡れた音。先ほどまで己の舌と絡まっていた舌がジャンの耳朶をゆっくりと舐めあげ…厚めの上唇で噛まれる。

 カチャリ。いつのまにかズボンが引き下ろされている。けれどそんな事に意識を向けれるほどジャンには余裕がなくて



「ん、んん…あ、…は、もっと…ゆっく…バク…シ…」
「…イヤダネ。こーんな可愛く啼くんなら…いくらでもやってやんよ。…何しろ俺は…暇だからなあ…」
「――――っ」
「目が見えない分、せめて声で楽しませてもらわなきゃあなあ」
「ひ…あ、や…そこっ!」



 直接後腔に指を入れられる。巧みに動く指先がイイところを掠め、びくり、激しく身体が痙攣する。

 とろとろ、と己のモノからながれだす感覚。目尻に溜まっていた涙が頬を伝う。

 べろり、と蛇を思わせるような長い舌がそれを舐めとり…男の唇が歪む。



「見てみてえなあ…テメエの泣き顔。…さぞかしそそるんだろうなあ…」
「…………っ」
「……なあ、テメエ、誰だ?…俺の知ってるヤツ?でも、こーんな俺を助けようなんてモノ好き、いたかねえ」



 少なくとも、俺の組織にはいねえなあ、と含み笑い。



 それを見て思わず息をのむジャン。―――何が、言いたい。…そう言いかけた言葉を無理やり飲み込む。



(悟られるな)



 そう、悟られるな。言い聞かせるように、唇を一瞬キツク噛みしめ……ぐにゃり、と歪む



「く、は、はは…は」
「…何笑ってるのけ?」
「バカ…イウな…」



 とぎれとぎれの声で…告げる。




「…俺が誰だっていいだろ?…こんな関係…テメエの目が見えない間だけ…目が覚めたらゲームオーバーなんだからな」



 そう、気づかれたらゲームオーバー。戯れでもこんな風に肌を重ねる事なんて…ない。

 忘れるな。自分とコイツは敵同士だってこと。



「これは…ただの…暇、つぶし。お前も…お前も、そう、だろ?」



 一瞬動きを止めるバクシー。見えぬはずの視線をジャンの方にめぐらせ……そして、笑う。



「だろうな」



 ぐちゅり。深く突きいれられる指。そしてモノの先っぽに触れる感覚に身を震わせると



「…イケヨ…お嬢ちゃん」



 瞬間、ぐり、と尿道に親指の爪をつきたて



「ああああああああああああっ」



 次の瞬間、ジャンのモノから大量の白濁の液がとめどなく溢れだした。





 弛緩した身体。それをバクシーが支える。…見えないはずなのにしっかりと己の身体を受け止める。

 肌が重なり合う部分が熱い。…蛇のような男なのに…こんなにもお前は熱いのか。

 思わず唇から疲れが交えた笑みが漏れる。



(どうして、だろうな)



 どうして、こんな風に敵対する男と抱き合うような羽目になったのか。

 それよりも…どうして…この男を拾ったのか。



(…今は…ねみぃ)



 とろとろとした眠気に誘われながらジャンはゆうるりと数日前の出来事を思い返していた…。




write by 【誘惑モラトリアム】 master 【河相 莉緒】
pict by 【赤菫堂】 master 【イミフ メイ】



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