Last mosca cieca









目の見えぬその眼(まなこ)で

ほら、追いかけろよ(追いかけてやるよ)


終わらない(終わらせない)


2人だけのmosca cieca






Last mosca cieca






元は白かった筈の、今は灰色の包帯に覆われた視界には何も映らない。
何も見えない筈なのに薄っすら入り込む光の中で、奴はあの時とは逆に俺の膝に乗り上げキツク肩にしがみ付いている。
もっとも、逆なのは体勢だけで行為自体はムカつく事に主導権を握られたままだけれど。

「・・・の、やろ・・・!」
「はぁん?まぁだ、チンコ触ってねぇんだけどなぁ?なんでこんなにしてんだ、お嬢ちゃん?」
「くっ・・・、は!てめ、だって・・・随分キツそうなんじゃ、ね?」

ファスナーも下ろさずにズボンに押込められたままのバクシーのそれは、布越しでさえドクドクと脈打ち既に体で覚えた熱を感覚で感じるだけで後ろも前も反応してしまう。
そんな俺を嘲笑うように、けれど手付きだけは優しくゆっくり繰り返される愛撫にもどかしさを感じた。

「何・・・ゆっくりやって、ん・・・!」

仮にもここはCR:5の本部、カポである俺の執務室だ。
いつ誰が来るか知れない状況では、ゆっくりしている暇はない。
クリクリと乳首を捏ねながら奴の唇が覆い被さりザラリと舌で歯茎を舐められた。
俺はそれに応えるように舌を差し出し、途端に攫われた熱に腰が砕けそうになる。
ちゅっちゅっと水音を響かせ交わす口付けは執拗で、乳首を摘む指と布越しにペニスに触れる手に思わず腰が揺れた。

「あ・・・っ!?」

奴の舌が離れる際、物干しそうに伸ばされた舌を軽く弾かれて痛みに顔を顰め睨み付けるが、包帯に遮られた状態では効果は無い。

「そうガッツくんじゃねぇよ、ジャンカルロ。時間はたぁっぷりあんだからなぁ?手抜きしねぇでちゃ〜んと追い掛けて来いよ?」

「な、何・・・?お前・・・」

「俺は、ずっと捜してるもんがあんだ。それが何かは、もう判ってんだけどな?そう簡単に判っちまうと面白くねぇだろう?」

「バクシー、お前、ナニがしたいんだ・・・?」

その間も、頬を撫でられる手が熱い。
今まで感じた事のない手の平の感触に、ふと不安になり問い掛ける。

「ナニって?さっきも言ったろ〜?だから鬼ゴッコだ、ジャンカルロ。

欲しいモンを先に捕まえた方が勝ち。

捕まった奴は、また”それ”を捜して追い掛ける。

永遠に終らねぇ、目が覚めても終らせねぇ鬼ゴッコ」

「お前の捜してる、欲しいモンって・・・」

「もう、捕まえたぜぇ?・・・けど、まだ見つけてねぇ。見つけちまわねぇ方がいいんだろ?CR:5のカポさんよ」

ちゅっと包帯越しに奴の唇が瞼に落とされ、膝に感じていた重みが消える。

「じゃあな、ジャンカルロ。次はてめぇの番だぜ?」

そうして強烈な刻印だけを俺の胸に刻みつけた奴の気配は、窓から吹き込む風と共に消えた。

「追って来い、って・・・事かよ」

瞼に巻かれた包帯を乱暴に剥ぎ取りながら、俺はニヤリと唇を歪める。

「上等、だ・・・!」

俺はラッキードッグ。

ラッキードッグ・ジャンカルロ!

今まで狙った勝負を逃した事は無ぇ!!

「必ず、捕まえて、そして・・・次もまた、てめぇに俺を追わせてやる!」

勝負だ、バクシー・クリステンセン!!










翌日、俺は面倒で退屈な書類を今だかつてない速さで片付けて本部を抜け出した。
あんな爆発騒ぎの後だから、ベルナルドやカヴァッリの爺様からはキツーイ小言を食らうだろう事は判ってる。
それでも俺は急く脚を止められなかった。

目指しているのは俺の住んでいたアパートの近くの、あの小路。
サクサクと降り積もった雪を蹴散らし辿り着いたそこ。


昨夜から降り出した雪のせいで、あの日薄暗かった小路は白い絨毯が敷かれ淡く光り輝いて見えたけど、俺の目に一番輝いて見えたのは。


「見つけたぜ・・・バクシー」
「へぇ・・・?本気で捜したのか、てめぇ・・・マジで俺に惚れてんだなぁ?」
「ヌかせ、それはてめぇの方だろ?・・・わざわざCR:5の本部にまで来やがって、他の幹部に見付かったらどうするつもりだったんだ」
「べっつにぃ、それならそれで面白かったんじゃねぇの?」
「馬鹿か、てめぇは」
「子猫ちゃん程じゃぁねぇよ」

軽口を叩きながら一歩一歩近付く俺を、奴は手元で光る何かを玩びながら見ている。
逸らす事の出来ない視線を固定したまま、木箱に座った奴の目の前に立った俺をバクシーは見上げてきた。
コツンと当たった爪先に互いの意識が集中して、何も言わずに手を伸ばしてゆっくり俺の手を握った。

「Merry Christmas.金髪お嬢ちゃん?お誂え向きにホワイトクリスマスだぜ?雪ん中でワルツでも踊るかぁ?」
「阿呆、今日はクリスマス・イヴだ。キリストの生誕祭は明日だっつの」
「んぁ〜?ああ、そっか?・・・ま、俺にゃ関係ねぇか。俺みてぇのを生み落とすにしちゃあ、カミサマもとんだ日を選んだもんだよなぁ?」
「は・・・?」

俺の手を放したバクシーは、スクと立ち上がり俺を見下ろしながらずっと手に持っていた何かを俺の首に掛けた。

「イイコで俺を見つけたニャンコにゃ、クリスマスプレンゼントがいるだろう?」
「え・・・って、これ!俺の・・・!?」

そこにあったのは見慣れた金の輪っか。
お袋の形見の金の指輪のネックレス。

そうか!

あの時、これ置いたまま・・・。

「お前・・・これ・・・いや、って言うか、さっきお前を産み落としたとか言ったか?まさか、今日・・・」

「ああ・・・俺様のお誕生日なんだと、クリスマスの前夜なんかよ、めでたくもなんもねぇ。つっまんねぇ日だぜ、毎年」

「・・・バクシー・・・」

「あんだよ・・・」

奴の胸をドンっと押して、再び木箱に腰掛ける形になった膝の上に乗りボソっと呟く。


「・・・Buon Compleanno・・・バクシー・クリステンセン」


「・・・あ?イタ公の言葉じゃなくて英語で言えや、お嬢ちゃん。キザったらしい台詞はいらねぇんだよ」
「キザったらし・・・はぁ・・・Happy Birthday、バクシー。これでいいかよ?ったく・・・」

そうして俺はプレゼント代わりの口付けを奴に贈る。
奪うでも与えるでもないキスを、バクシーは大人しく受け止めていた。
かと思えば、いきなり奴の下が歯列に割り込んで強烈なキスをお見舞いされる。

「ふ・・・ぅ、バ、バクシー・・・!お前、ここ、外・・・!!」

激しいキスの合間に拒絶した俺を、バクシーは口の端を歪めて笑うだけで取り合おうとはしない。
それどころか逆に煽られたのか布越しに後孔付近に指をめり込ませ、初めて肌を重ねた夜を否応なしに思い起こさせた。

「勃ってんなぁ?お嬢ちゃん、気持ちイイのかぁ?」
「何・・・してん・・・クッソ寒い雪ん中、で・・・んぁ!ん、ん、あ・・・っ!」

前触れなく前を掴んだ手がファスナーも下げない俺の下肢をグリグリと捏ね回し、貪るようなキスの雨は止まない。
前も後ろも直接触られてはいない。
なのに有り得ない熱でじんわりと下着が濡れていくのが判る。
当然その湿り気を帯びた下半身にバクシーも気づいている筈で、なのに奴は布越しの愛撫だけを執拗に続けている。

「はっ・・・テメッ・・・!いい加減に、しろ・・・!」
「はぁん?なぁんの事かなぁ、子猫ちゃ〜ん?人の上でや〜らしく腰振ってんじゃねぇよ」
「知る、か・・・!馬鹿!クッソ・・・!」

いいように玩ばれるだけで我慢出来なくなった俺は、俺と同じかそれ以上に存在を主張する奴のムスコに力を加えた。
キュッと根元を握るように包み込み、冷たく凍える手を温めるよう擦りあげていく。
その間も俺の孔とペニスを翻弄する奴の動きが止まるわけでもなく、何の勝負か負けじと睨み付けた。
そこでカチ合った視線が、奴の瞳が、見た事のない色に染まっているのに気付く。

いや、俺はこの色を知っている。
一度だけ目の見えない筈の奴と目が合ったと感じた瞬間。

あの時と同じ。
鋭く光る銀の瞳の奥の奥。

引き込まれそうなそこにあるのは、

明らかな狂気と僅かな温もりと、

微かな孤独と、

もっと微かな・・・。

「ふ、ああああ!」

考えに耽りかけた俺を引き戻すように、バクシーの手の動きは激しさを増し、気がつけば冷気が吹き荒ぶ冬空の下で上着もシャツも半脱ぎ状態。
冷えた体を温めるように与えられる熱に、俺の脳内はスパークし続ける。

「や・・・めろって、バクシ・・・!ここ、外・・・!」
「知らねぇよ、んな事・・・!いいから、てめぇはイイ声で啼いてろ、俺の腕ん中でなぁ?」
「は、ん・・・!ヤダ・・・!こ、な・・・バクシー!!」

首を振り拒絶する俺の腕を後ろ手に拘束し、自分が座っていた木箱に俺の顔を押し付け後ろから体重を掛けてくる。
手早く下されたファスナーとベルトを外す金属音。
何をしようとしているか判っても痛い位に捩じ上げられた腕に動く事もままならない。
一気に外気に晒された俺のペニスは寒さの中でもその質量を抑えるでなく、はちきれんばかりに膨張したそれにバクシーの長い指が絡まる。

「パンパンだなぁ?イカせてやろうかぁ?イカせて下さいバクシー様っつったら、もっと気持ちイー事してやんぜ?」
「言う、か・・・馬鹿!誰が・・・!」


「だと思ったぜ、てめぇは、俺に屈しねぇよなぁ・・・?」


「・・・?バク・・・?ひぃあ!!?」

ヒヤリと冷たい指が双丘を掴み、無遠慮に肉を割って普段隠れた場所に冷気が入る込む。
ヒュッと息を飲んだ途端、冷えた熱を取り戻すかのようなぬめりが与えられ背中が仰け反った。

「ひ、ふあぁ・・・!てめ・・・ど、こ・・・ん、んぁあ、あ・・・!」

腰に腕を回し、前を扱きながら後ろでは長い舌がチロチロと穴の皺の一つ一つを舐められ少しずつ解されていくそこがヒクついて震えるのが判る。

「はあ・・・あ、ん、バクシー!それ、止め・・・ん、ひぁぁん!」
「止めて欲しくねぇだろ?すっげぇ感じてるよなぁ?とろっとろんのぐっちょぐちょんなってるぜぇ?」
「そ、それは・・・お前、が・・・あ、は、ああ!」

喋りながら続いていた愛撫に平時モノを受け入れる筈のないそこがスルリと長く暖かい舌の挿入を許したのが判った。
同時に掠めた場所は散々弄られてきた俺の性感帯の一つで、判っているのだろうバクシーは執拗にそこを突いている。
絶えず刺激を与えられるペニスはビンビンで、今にも弾けそうで目の前がクラクラする。

(も、イキて・・・)

「バクシー・・・も、イク・・・!」

はぁ、と大きく息を吐き競り上がる射精感を解放しようとした途端、無骨で長い指がそれを堰き止めた。

「は・・・!?なっ、バ・・・!?あ、あああ!!」

根元を強く握り、舌を引き抜いた奴は俺の背中に覆い被さり耳を齧りながら囁く。

「まぁだ、だろぉ?そんな簡単にイカせねぇよ?お楽しみは、まだまだだろ」

そうして宛がわれたのは奴のペニスではなく飲み込むには少々キツ過ぎる三本の指だった。

「ガ・・・!い、っつ・・・!馬・・・鹿、いきな、り・・・あ、ああっ」
「すぐヨクなるだろ?散々慣らされたもんなぁ?”どっかの誰か”によぉ」
「あ、ああ、ふ、ああ!!」


自分が、ではなく、どこかの誰か。

そう言った奴の言葉にまだこのゲームを楽しんでいると、続けようとしている事を知る。

見えない瞳で感じた俺を追いかけて、全て見ていた筈の俺は見えない鎖にがんじがらめで捕まった。

なのに捕まえた筈の俺をアッサリ開放して、追いかけて来いよと手招きする・・・。

随分性質の悪い、クリスマス・イヴ生まれのジーザス・クライストだ。

いや、性質が悪いのは、見えていなかったのは、見ていなかったのは、俺の方・・・か・・・。


「追、い・・・」

「あ?」

「追い、かけて・・・やる、さ・・・逃がしたり、しねぇ・・・!」


お前はきっと判ってた。

全部見えて、それでもゲームを続けようと見えないフリで、それに気付いてた筈の俺はお前の考えも何もかもを見えないフリをした。
無様に足掻き続けた俺を嘲笑うように追って来たお前は、今度は何も知らないフリでゲームを続けてくれるんだ。
強く穿たれたのと同じ熱で抜き出される指を引き止めるように孔の筋肉が収縮し、ビクリビクリと震える腰と欲を抑えられたペニスが驚く程卑猥に揺れる。

「は、あ、ああ、も、イ・・・イカ、せろ・・・!あああ!!」
「だぁめ、だ、ろ?まだ駄目だよなぁ?」
「なん、で・・・!!はあっ・・・ん、ああ!」

耳に届いたのは、拗ねたような声音。

肩越しに睨み付けた奴の目は、バクシーの指に喘がされる俺を揶揄しながら咎めるように眇められている。
その意味がサッパリ判らず、それでも間断なく与えられる快感は容赦無く俺を責め続けていた。

冷たい筈の外気が暑く感じる程上がった息。
背中に寄り添った奴の股間もはち切れそうに膨張しているのに、突っ込もうとはせず俺を煽るだけ。
ぬめぬめと抜き差しされる指が好き勝手に腸内を蠢き、時折前立腺を掠める度にペニスに血が集まり血管毎切れそうだ。
もういい加減限界も何もかもを突破しそうで、それでもバクシーの瞳の意味が気になって振り返ると食われそうな勢いで唇を塞がれた。
首だけ振り返った状態でのキスは息苦しく、止まらない前後への愛撫に閉じた瞼の裏がチカチカと瞬く。

(・・・あ?れ?・・・もしか、して、こいつ・・・本気で、拗ねてる?)

「お、前・・・ん、あ、ああんっ・・・ちょ、待・・・バクシーッ!待て、って・・・!」

「嫌だね、待ってやる必要、ねぇだロ?」
「ふぅ、あ、ちが・・・あ、あ、待てってば・・・!」

ギュっとペニスを握ったままの手の甲を叩き、無理矢理体の向きを変え大きな背中を抱き締めた。
後ろの孔に納められた指はしつこい程内壁を抉っては擦り続け、正直言葉を発するのも辛かったけれど・・・。

「は、あ・・・これで、おアイコ、捕まえたぜ・・・バクシー・クリステンセン・・・」

ニヤリ笑って告げた言葉に、バクシーの銀の瞳が大きく見開かれ喉が小さく鳴った。

「鬼ゴッコは、捕まったら逆、なんだろ・・・?次は、お前が俺を追いかけろよ・・・簡単に捕まってやんねぇけどな」

ゴツンと額を押し付けた俺に、バクシーは硬直を解かれたようですぐにいつもの不遜な態度に戻る。

「言うじゃねぇか、お嬢ちゃん。俺から逃げ続けられると思うなよ?今みてぇに、な!」

そして、手早くズボンの前を寛げた奴は指を引き抜いたそこに熱過ぎる程滾ったそれを押し込んだ。
急激に深く突き立てられた熱と、爪先からせり上がって来る快感に再び目の前がスパークする。

冷え切って凍った木箱が剥き出しの尻に当たって酷く冷たく痛んだ。
けれどそんな事は気にならない位何度も抜き差しされる熱に夢中で、その疼きを甘く感じる暇などある筈もない。
壊したいのかと思う程激しく、かと思えばこちらの気が引ける程優しく、緩急をつけた抽挿は留まる事がない。

「は、ひっ、や、ああ、あ、んあぁあ!も、ムリ・・・バクシー!」
「う、くぅ・・・クソッ、子猫ちゃんは、随分貪欲だなぁ?俺を咥え込んで、千切られそうだぜ・・・!けど、まだ、まだだろぉ!?」

ドクドクと隙間から溢れる液体は何度も放たれた証で、既に自分自身も幾度か白濁を吐き出していた。
捻るような動きの後に、性器の真後ろを擦り上げられ背中が引き攣る。
グチュグチュに濡れきったそこはもうバクシーのペニスを受け入れる為の器なんじゃないかと言う程ピタリと吸い込んで、奴を離さないのは確かに自分の方かもしれない。

「ああ、はぅ、う、く・・・ぅ、あ!ひゃぅ!い、あ、ああん!だ、ダメ・・・も、ダメ・・・バクシィ・・・!」

絶え間なく与えられる快感に、喘ぎ続けた喉は掠れ潤みっぱなしの瞳からは生理的な涙が零れた。
冷えた頬を伝うそれをバクシーの長く暖かい舌が拭い、束の間火照った顔をその肩口に押し当て自分が付けた傷にもう一度歯を立てた。

「・・・ツ、てめ、イッテェだろうが!飼い猫がご主人様に牙剥いてんじゃねぇ〜よ!」
「誰が、飼い猫だ・・・!俺が飼い主だろうが!」

すっげぇ可愛くねぇ猫だけどな!

どうでもいい会話の合間に、バクシーは俺の指を絡めとり指先に口付けを落とす。

「つっめてぇ、指ぃ・・・」

「は、当たり、前・・・!ここ、どこ、だと・・・!ん、あ、ああっ・・・真冬に、外で、とか・・・あ、ん、有り得ね・・・え!」


「似合いだろう?俺達にゃあよぉ?真っ白い雪の中で、ワルツでも、っつたろうが?踊れよ、ジャンカルロ、もっと激しく、もっと熱く踊れ」


カリっと指先を噛まれた途端、絡めた指が関節とは真逆に曲げられる。

まさかと思う間もなく、より深く打ち付けられた肉棒が何度目かも判らない熱を放ち、俺もそれと同時に薄くなった白濁を迸らせた。


そして・・・。



「は、あああああああ!!」



ボキリ、と・・・。


嫌な音を立てて二本の指が折れたのを、視界の端に捉え俺は意識を失った。








目が覚めた時、俺はやけに暖かいモノに包まれていた。

そこはまだ外だったけれど、さっきまで寒すぎたせいで背中からじんわり染み渡る熱に思わず頬を摺り寄せた。

「擽ってぇ」

「・・・あ?」

「擽ってぇだろう」

「バクシー!?お前、何して・・・」

てっきりあのまま放置されると思っていた俺は、何度か瞬きを繰り返して目の前のデカイ胸板とこちらを見下ろす目付きの悪い瞳を凝視した。

「あのまま消えちまったら、またお嬢ちゃんが鬼のまんまだろうが。だから、今度は逃げる時間くれぇやろうと思ってな?」

あくまで鬼ゴッコの延長を主張するバクシーに、思わず苦笑とも失笑とも付かない笑いが零れた。

バクシーは怪訝そうに俺を見下ろすけれど、俺は奴には応えずあっちこっち痛む体を起こし立ち上がる。

その時になってようやくバクシーが体全部で俺を抱き込んで暖めてくれていたのに気付いた(じゃなかったら雪ん中で凍死確定だろ)

「踊るんだろ?雪の中でワルツを」


立ち上がった俺を見上げたバクシーは、間抜け面で目を大きく見開いて、折れて腫れ上がった指を差し出した俺の手をゆっくりと取る。

「ジャンカルロ、おめぇよ、馬鹿じゃねぇ?」

「うわ、お前にだきゃ言われたくねぇ!」



そうして俺達は狭い路地裏、細い小路で、白い雪が舞い落ちる中でワルツを踊る。

そう言えば今日はコイツの誕生日だったなぁ、なんて呑気な事を考えながら。

ズキズキ指は痛むし寒くて鼻水垂れそうだし、かじかんだ足は動かねぇし。

最悪だと悪態を吐く俺達は、今この腕を離せば敵同士。


終らない鬼ゴッコの終りは、決して交わらない日常の始まり。


だから俺達は踊り続ける。


日常を忘れて、楽しいゲームを続ける為に。


「次は、お前が俺を追って来いよ、バクシー」


「へっ!す〜ぐ捕まえてやっからよぉ、楽しみにしてろよ?ジャンカルロ」


俺からのもう一つの誕生日プレゼントは、永遠に続くこの鬼ゴッコの続きでいいよな?


俺達は踊る。


クルクルと舞う雪と、暗く冷たい空を観客に。





終らないゲームのプロローグを奏でながら。





俺を捕らえたその眼(まなこ)で




ほら、追いかけろよ(追いかけてやるよ)




終わらない(終わらせない)




2人だけのmosca cieca




ゲームはまだ




終らない




write by 【夢のたわごとR】 master 【ruu2】
pict by 【Bakanoise】 master 【稲子】


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